新生クロエを率いるナターシャ・ラムゼイ=レヴィ、ブランドのこれからを語る

新生クロエを率いる37歳のパリジェンヌ。ナターシャ・ラムゼイ=レヴィが語るブランドのこれから。

クロエの新クリエイティブ・ディレクター、ナターシャ・ラムゼイ=レヴィがブランドを率いる覚悟や尊敬して止まないニコラ・ジェスキエールへの想いなどを語ってくれた。
パリ生まれの37歳。ナターシャってどんな人?
Natacha Ramsay-Levi
Photo: Paolo Roversi
5月、ある金曜日の午後、パリで取材に応じたナターシャは、クロエ(CHLOÉ)のクリエイティブ・ディレクターに就任して6週間がすぎたところだった。その日の予報は雷雨で、パリ8区に位置する高級ホテル、ラ・レセルヴの豪奢な敷地内の空気はじっとりと重かった。しかし他の食事客たちが手で顔を扇ぎ、ウェイターに冷たい水を注文する中、ナターシャはあくまで涼しげだった。「クロエに選ばれたのは、私にとってはとても自然なことだったの」と彼女は肩をすくめ、ベルベットのソファに身を預けた。「このポジションに就く力は十二分に持っていたから」
彼女はまだ完成前の洞窟じみたメゾン クロエでの『VOGUE』の撮影を終えたところだった。メゾン クロエは5階建ての建物を改築した野心的プロジェクトで、ペルシエ通りのクロエ本社からわずか30秒の距離にある。建物内にはオスマン様式の部屋がずらりと並び、アーカイブや企画展示、イベントスペース、VIP試着室やプレス向けショールームとして使われる予定のほか、一部は一般にも公開される。ギイ・ブルダンの写真展もそのひとつで、9月3日まで開催中だ。プロジェクト完成を前に、新たなクリエイティブ・ディレクターの就任は時期としてもぴったりだ。
Natacha Ramsay-Levi
女優のイザベル・ユペール(左)とメゾン クロエで開催中のギイ・ブルダンの写真展にて。 Photo: Abaca/AFLO
しかし、クロエがこれほど大規模のプロジェクトを遂行する、フレンチファッションのビッグメゾンとして名声と商業的成功(今年中にロンドンの旗艦店を含めて12店舗を新設予定)をほしいままにするブランドであることを考えれば、ナターシャの抜擢はやはりサプライズだったといわざるをえない。今年1月、前任者のクレア・ワイト・ケラーが6年間務めた役職から退任すると発表された時、比較的知名度の低かったナターシャは、誰の目にも明らかな候補者とはいえなかった。ニコラ・ジェスキエールの熱心な崇拝者だった彼女は、デザイナーとして登りつめ、バレンシアガ、続いてルイ・ヴィトンで15年間にわたってその右腕を務めた。ハードエッジで未来的かつ両性的な彼女のテイストは一見、ソフトフォーカスでボヘミアンな曖昧さを味わいとするクロエとは食い違うように思われた。
私たちがオーダーしたコーヒーが、小さな四角いチョコレートとともに運ばれてくる。彼女は白いTシャツに、黒のフリルの入ったバレンシアガのスカート(「昔のね、ニコラのデザインなの」)、そしてルイ・ヴィトンのカウボーイスタイルのブーツ姿だった。3月に就任を伝えたニュースに添えられていたモノトーンのポートレートより、もっと若くも見えたし、もっと年上にも見えた。若く見えたのは彼女が笑顔で、メイクアップをしていなかったから。年上に見えたのは、いかにもフランス人らしい率直さが醸し出すその存在感のためだ。彼女はこの数週間を、チームメンバーと知り合い、アーカイブを調べまわり、会議漬けのめまぐるしいスケジュールに慣れることに費やしつつ、さらにデビューコレクションのデザインに本格的に取り組もうとしていた。これまでのところ特に驚かされたことはない、という。
「驚くというのはいい表現じゃないでしょうね」と彼女は微笑んだ。取材中、彼女は私の質問を何度となく訂正したが、その最初の訂正だった。「だって事前にちゃんと話は聞いていたんだから。クロエでは、明朗で気持ちのいい人々ばかりで、皆とても仲がよくて。私には全員がひとつのチームとして、ひとつのものを作り上げているという感覚があることが必要。自分の仕事についてもすごくオープンにしているの」
Natacha Ramsay-Levi
ギイ・ブルダン展で歌手のサンドリーヌ・キベルラン(左)と。 Photo: Abaca/AFLO
どこまでもオープン、そしてどこまでも明確だ。彼女は、65年の歴史を持つクロエというブランドへのビジョンをはっきり持っている。それは彼女が醸し出す不思議なほどの自信からもうかがえる。その自信こそ、クロエのジョフロワ・ドゥ・ラ・ブルドネイ社長が37歳の彼女に最初に魅力を感じた理由だ。
「彼女は最初からクロエをよく理解していました。とても説得力があったんです」とブルドネイ社長は振り返る。「クロエとは自由のブランドです。とても民主的で、何かを押し付けることがない。そして常に今を切り取ってきた。彼女はそれを理解しています。」デザイナーとしてはまだ若い年齢もプラスポイントだった。「クロエの創業者であるギャビー・アギョンとは何度も会ったのですが、若さは重要だといつも言っていました。彼女の素晴らしさは、クチュールのアトリエを率いる能力があるだけでなく、彼女自身がクールな若者としての在り方を知っているところです」
9月に開催される2018年春夏のショーでデビュー。
Natacha Ramsay-Levi
2015年、ルイ・ヴィトンではプレタポルテを担当。 Photo: Shutterstock/AFLO
ナターシャが持つクロエのビジョンは現実的だ。彼女が強調するのは、これまでもクロエガールに歓迎されてきた、個人のパーソナリティを映し出すファッションへ人々を導くこと。そして取材中に何度も話題に出たのが、カール・ラガーフェルド、ステラ・マッカートニー、フィービー・ファイロといった過去の名だたるクロエのデザイナー陣だ。「クロエは喜びや、自然さ、気楽さ、そしてフェミニニティを象徴するハウス。それはストリートとアーバンスタイルの中間にあるものかもしれないし、ごく気軽でありながら、かつ洗練されてもいる。」息継ぎのために言葉を切った後、「あらゆる女性がクロエに自分らしさを見出すことができると思う。とてもパーソナルなものに感じられるはず」
こうした姿勢を表すように、彼女はクロエをボヘミアンだとは考えていない。それは彼女のスタイルではないのだ。9月に控えたファーストショーでは、まず間違いなく彼女の手によって、クロエにストリートワイズなボーイッシュさが吹き込まれるだろう。クラシックなふわりとしたレースの精巧なドレスに、トムボーイ風のスーツ生地を合わせるかもしれない。しかし彼女は“パワー(Power)”という言葉を嫌って使わなかった。彼女が好んだのは、“強さ (Strength) ”という言葉だ。
「クロエといえば、私が想像するのは繊細なブラウスや、そういう洗練されたもの。」あなたの基調である未来的なデザインでどのようにクロエの軽やかさを表現するのか、との質問はすぐさま却下された。「私は自分のブランドではなく、クロエというブランドの仕事をしているの。ウェアもバッグも、当然クロエのままでなければだめでしょう。」ブティックのインテリアは現在の外観を維持するが、ショーの開催場所は従来のグラン・パレではなくなるという。
Photo: Shutterstock/AFLO
パートナーだったオリヴィエ・ザームと。  Photo: Shutterstock/AFLO
どんなものをファーストコレクションの主役に据えるつもりなのだろうか。「口に出すとちょっとありきたりになるけれど…… もちろん主役はブラウスで、パンツで、ケープで、ロングドレスで、モスリンで、レース。クロエはとても多様なものを持っている。でもこういう要素をカバーすることより重要なのは、アティテュードの問題ね。」ダークグリーンのソファに背を預け、「ブランドのDNAをどうやって受け継ぎ、今この時代と対話させて融合させるか。どう時代に合わせて進化させるのか。あとどこに少しの不遜さを加えるかね」
ナターシャはまさにパリを体現する人物だ。この街で生まれ育ち、はじめは歴史家になりたかったが、大学の歴史科に通っている間、布地を自分の体に巻きつけては友人と開く「とてもとても未熟な」ファッションショーのための衣装制作に時間を費やした。「あるとき自分は間違った方向に進んでいるんだと、本当はクリエイティブなことがしたいんだと気がついたの。私は恐れず挑戦したかった。だから方針転換したの。」さらりと彼女は言った。
両親はあまりいい顔をしなかったが、それでもファッションスクールのステュディオ・ベルソーに入学。当時ニコラ・ジェスキエールが率いていたバレンシアガに目標を定めると、懇願してインターンシップを獲得。コーヒー係の彼女が人数も少なかったチームメンバーと親しくなるのに時間はかからず、そしてすぐにジェスキエールと意気投合した。
“ニコラのことはいつも考えてる、ほとんど毎日ね”
Natacha Ramsay-Levi
ナターシャのキャリアに大きな影響を与えたニコラ(右)をはじめとする仲間たち。 Photo by Instagram/@nramsaylevi/Natacha Ramsay-Levi
そこでの体験を彼女は「ラブアフェア(恋愛関係)」だったと表現する。15年間、彼女はほとんどジェスキエールのそばを離れなかった。彼がバレンシアガを去るにあたっては(その時ナターシャは彼の指名によってクリエイティブ・ディレクターになっていた)、ともにルイ・ヴィトンに移り、プレタポルテを担当した。「なにもかも教えてくれたのは彼で、最初に(バレンシアガに)入った時はもう彼の作品にすっかり夢中になっていて。とても強い力を感じて、心から彼の隣にいる女性になりたいと思った。これまで生きてきていちばんクールな出来事だってね。」と熱っぽく語った。
クロエでの仕事にもジェスキエールの影響は間違いなく表れるだろう。「彼のことはいつも考えてる、ほとんど毎日ね。」はにかみながら彼女がしきりに言及したのは、異なるものを融合させるジェスキエールの能力だ。「ハイエンドなファッションを、とてもポップでわかりやすいものと融合させられる人だと思う」
Natacha Ramsay-Levi
家族と過ごすことは彼女にとって最も大切な時間。 Photo by Instagram/@nramsaylevi/Natacha Ramsay-Levi
ファッションから頭を切り替えさせてくれるのは家族の存在だ。パリの中心部に住居を構える彼女は、仕事以外のプライベートについては極端な秘密主義をとる。『PURPLE』誌の創立者、オリヴィエ・ザームとの間に4歳の息子のバルテュスを授かった(ザームはウェブサイトに彼女との痛々しい破局についての記事を掲載したことがある)。二人は破局したが、彼女はザームが前のパートナーの女性との間に生まれた12歳の娘も育てている。「子どもたちと時間を過ごすのが一番大事。なにもかも忘れられるわ。そうしなきゃ子育てできないもの!」
ナターシャは、著名で力ある人々に囲まれ、成功に照準を合わせた人間の揺らがぬ自信を持っている。彼女は自分を疑うなどということはしない。「私の人生はずっとそんな感じ。タイミングがいつもばっちり。」クロエでのキャリアにも、特に困難はないと考えている。「『困難』というとまるで苦労して山を登っているみたいだけど」と眉をしかめる。「私は登山をしているとは感じていないの。ただ私の好きな道を力強く歩んでいると思っている。だから、そう、大事なことは、女性が気に入ってくれて、着たいと思ってくれるかどうか。大事なことはそれだけね」  元記事はこちらVOGUE

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